2 我が家に来るまで


 社宅から一軒家に引っ越して一ヶ月もたたないうちに、私はもう犬を飼いたくてたまらなくて、インターネットなどでどの犬を飼おうかと調べ始めた。主人は、それほど動物好きではないので最初は渋っていたが、ネットの情報などを見せている内に、段々主人の方が熱が入ってきて
「この犬はどう?」
なんて自分の方から情報を見つけて見せてくれるまでになった。

犬の条件としては
 室内で飼える犬
 気性がおとなしい、飼いやすい犬
を目標にしていた。

 キャバリアに目をつけたのは最初は主人だった。
「とっても人懐っこくて、飼いやすいって。どこのページでもおすすめみたいだよ。」
 調べていて段々わかったことだが、犬種によって犬の性格は大体決まっているものらしい。よく吼える犬、おとなしい犬。トイレのしつけも、しやすい犬となかなか覚えない犬に分類されているページもあった。
 その中でキャバリアは、全体的にとてもバランスがよく、大体どこのページでも「家族向け」「初心者向け」のところに分類されていた。
 欠点として挙げられていたのは、誰にでもフレンドリーなため、「番犬にはならない。」と「遺伝的に心臓に欠陥がある場合があり、比較的短命」だった。

 恥ずかしい話だが、このキャバリアという犬種を私はそれまで全く知らなかった。見たことすらなかった。が、ネットで写真を見てその愛らしさに、心がかなり動いた。フルネームの「キングチャールズ・スパニエル」という言葉の響きにも酔った。この犬種は実際、イギリスが原産国で、チャールズI世の愛玩犬だったそうである。
というわけで夫婦共に、キャバリアでもう心は決まった。

 次は購入方法。
 ネットではどこもショップよりはブリーダーという意見が大半だった。理由はショップは、あくまで営利目的であるのに対して、ブリーダーは本当に犬が好きで育てているので、扱い方が違う、というのが多かった。中には名指しでペットショップで受けたひどい体験を告白しているページもあった。子犬は生まれてから予防接種を何度か受けるが、それすらもせず、病気になったらなったまま放置しておく、というショップのことも書いてあり、もしそれが本当ならひどいことだなあ、と思った。

 ブリーダーで購入するのが一番良い、と言われても困るのはブリーダーがどこにいるのかさっぱりわからないことだった。ショップと違って宣伝するわけではない。口コミで、評判が広まるのみで私のように、そういうつての一切ない人間にとってはこれはお手上げだった。
 何人かの方はご自分のホームページをお持ちで、そういうページも見つけたがそれらは全てかなり離れた場所だった。
「飛行機でも輸送もします」
と書かれてはいたが、私としたら一回ちゃんと犬も、その人物もお会いして確かめた上でないと、不安がある。結局このブリーダー探しは暗礁に乗り上げてしまった。

 散々ショップの悪口を見た後ではあったが、私は近所のペットショップを回ることにした。管理の仕方や、健康状態は見たり、お店の人と話せば大体わかるのではないか、と思った。
 何軒か回った末に、管理もしっかりしていて、お店の人の感じもいいところを見つけた。そこは生まれて1ヶ月は母犬の元で過ごすことが決まっていて、しかもその場所はブリーダーの家だという。つまり問屋じゃないが、ブリーダーが子犬をショップに卸しているわけだ。
 ワクチンもきちんと日付が値札の横に記入されていて、動物病院の証明書もある。
「ここなら、いいんじゃないだろうか。」
と思い、主人を連れて行って決断した。

 アレックスは、同じ2月2日に3匹生まれたキャバリアのうちの最後に残った子犬だった。飼うことを決めたのは4月の中旬だったから、子犬といっても他の犬に比べたら結構大きく見えた。
 しかし初めて生でキャバリアを見た私はもう大興奮だった。実物は写真で見るよりずっと可愛らしかった。
 すぐに連れて帰りたかったが、準備があるので数日後に迎えに行くことにして、その間ケージを買ったり、えさ入れ、首輪、リードを準備して、皆で名前を考えた。
 できるだけ呼びやすくて短い名前。それからイギリスの犬なので、かっこいい名前。ああでもない、こうでもないと考えて、「マックス」か「アレックス」になった。
 「アレックス」になった理由は、当時子供達が大好きだったアメリカの「お任せ! アレックス」というドラマからだった。より「アレックス」という名前の方に親しみがあったのだ。

 ちなみに血統書での名前は「アーク」だった。

 さて当日。
 迎えに行って、はじめて抱っこさせてもらったが、信じられないくらいに軽い。まるで羽根のようで、腕の中に小さく丸まっている命に私は感動を覚えた。
子供達も同じような感動をおぼえたらしい。
「こんなに可愛いとは思わなかった。」
と上の息子は、アレックスが小さな身体でぽこぽこ歩いているのを見てひたすら驚いて目を丸くしていた。

 アレックスはおとなしかった。
 急な環境の変化にびっくりしているせいもあっただろうが、吼えることも一度もなかった。ただ、時々人間の咳のような「ごほっ」という声を出していて心配だったので、夕方ショップに電話したら
「すぐ連れて来て下さい。」
と言われた。
 不安にかられながら抱っこして連れて行くと。
「風邪引いてますね。すいません。気がつかなくて。」
と薬を出してくれた。
 これにはびっくりした。良心的なショップだと思っていたが、「気がつかない」ってことはあるのだろうか? なんだかちょっと信頼が揺らいでしまったが、もうアレックスは我が家に来たのだ。返そうなんて気持ちはこれっぽっちも湧かなかった。

 かくしてアレックスは6番目の家族として我が家に迎え入れられた。
1999年4月22日のことだった。

 

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